奨励

人のとりこにされないように

奨励 高木 総平〔たかき・そうへい〕
奨励者紹介 日本キリスト教団高の原教会牧師

 あなたがたは、主キリスト・イエスを受け入れたのですから、キリストに結ばれて歩みなさい。キリストに根を下ろして造り上げられ、教えられたとおりの信仰をしっかり守って、あふれるばかりに感謝しなさい。人間の言い伝えにすぎない哲学、つまり、むなしいだまし事によって人のとりこにされないように気をつけなさい。それは、世を支配する霊に従っており、キリストに従うものではありません。

(コロサイの信徒への手紙 2章6―8節)

うごめくカルト

 多くの大学で勧めている国際交流やボランティアがあり、関心をもっている皆さんもいると思います。また世界や社会の問題、あるいは生きているうえで悩んだり苦しんでいる人、孤独で寂しいと感じている人もいるでしょう。そんなとき、真面目そうな人がやって来て、私たちの団体や教えで世界中の人を救い、素晴らしい世界を作ることができますよ、国際交流やボランティアの活動をしていますよ、就職相談にも乗りますよ、と熱心に声をかけてきます。行ってみると若い人たちが楽しそうにしています。でもそれは一面で、そのような団体のなかには、多くの問題、時には悲惨なことを生じさせているものがいくつかあり、皆さんを狙っています。それは「カルト」と呼ばれる団体で、京都でも10近い団体が活動しています。全国の大学170校以上が、このような団体から学生さんを守るために情報交換のネットワークを作っています。破壊的カルトと言われたりします。家族関係や心や健康、団体によっては財産、時には命を破壊するところからそう言われます。そんな怖いことが本当にあるのと思われるでしょうが、そうなのです。特に正体を隠したり、偽のサークルを作るものが批判されています。不安や恐怖をあおり、日本や世界が滅びるなどと脅かし、お金をたくさん取る団体もあり、共通なのは教祖やリーダーに絶対服従、辞めることは困難です。私は牧師で違う宗教だから問題にしているのではありません。勧誘方法や活動が違法だったり、問題を生じさせるからなのです。私は30年前からこのような相談に乗ってきました。大学生の皆さん2万人以上にカルトについて話してきました。お読みいただいた聖書のように「むなしいだまし事で、人のとりこになる」という言葉がピッタリな組織なのです。
 ここでまず知っていただきたいのは、皆さんのところへやって来るカルトメンバーは、真面目ないい人、親切そうな人に見える場合が多いのです。怖い、悪いということは全く感じさせません。また、とても熱心だったり強引な場合もあります。末端のメンバーは至極真面目です。ただいろいろな団体があるので、丁寧に見ていかねばなりません。

その問題性

 では、何が問題かということです。多くの場合、カルト団体はこう言います。「この世界はすべて悪くて、間違っている。この世界あるいは日本はまもなく滅びる」。大学も例外ではありません。正しいのは自分たちだけで、自分たちは世界を救うことができるという教えです。確かに世界には多くの深刻な問題があります。原発や人口や環境の問題、不安になることもたくさんありますし、生きていくうえでもいろいろな不安があります。それらを一気に解決できるのが自分たちだけだと言うのです。ですから何か悩んでいるとき、親切そうな人が、うちに来れば真理が見つかりますよ、などと言われると、行く人も出てくるのです。その結果、言いましたような多くの問題や事件を起こすのです。人間はある環境、心の状態になると、とんでもないものも信じ込むのです。たとえばオウム真理教は、19年前に大事件を起こしました。その結果、29人もの人を殺し、6000人以上の人を傷つけ、かつて有能だと思われていた若者など13人の死刑が確定しております。でも彼らには「正しいこと」でした。そのオウム真理教では、教祖の超能力などを宣伝し、メンバーは信じました。霊界、メシアとか宗教的な用語を用い、その行動やあり方を正当化する根拠とする場合もあります。自分たちの信じている世界の価値観で、犯罪行為や問題行為も肯定する場合もあります。霊感商法という悪徳商法をやり続けている統一協会という団体もあります。この団体は深刻な問題を起こす合同結婚でも有名です。外から見て無茶苦茶な行動や教えでも、信じ込まされ正しいと認識してしまいます。このようにカルトのメンバーにしてしまうやり方を「マインド・コントロール」と言います。なぜそんなところへ入るのかと疑問に思うでしょうが、人間はタイミングによっては引っかかり、極端な情報のみを信じる場合があるのです。そのような組織には以下のようなものがあります。統一協会の学生組織、原理研究会(CARP)、教祖が性的暴行で刑務所に入っている団体、オウム真理教は名前が変わって分裂し、東京中心に活動しています。ゴスペルなどのグループを通して問題ある勧誘をする団体、親鸞や日蓮をもち出す仏教系の問題ある団体、たくさんあります。韓国のフェリー事故の会社のオーナーもカルト団体の教祖的な人だったと報道されています。

手口を知ろう

 これらの団体の手口を知って気をつけてください。特に正体を隠した場合、国際交流、ボランティアやスポーツ系の看板を掲げている場合があります。時には大学のサークルとして入り込む場合もあります。料理グループやゴスペルや合唱グループもあります。よく分からない団体でしたら、しつこく聞いてください。また、スポーツサークルなのに聖書の勉強をしようなどと、言っていることが変わったら疑ってください。勧誘の場所は、大学によってはキャンパス内や教室、街頭やお店、バイト先があり、家にやって来る場合もあります。就職相談を利用したり、将来職場で誘われる場合も考えられます。友人や家族からの勧誘もあります。カルト団体の本やホームページもあります。SNSの利用もあります。また正体は隠さないのですが、入ると言うまで帰さないような強引な団体もあります。きっぱり断ることが大切です。

気をつけ、考えて

 何であるか疑うことは、自分や家族を守るためには必要な知恵です。悪徳商法にも有効です。困ったり何か分からないことがあったり、情報があれば先生たちに相談してください。皆さんだけでは手に負えないこともあります。カルトに入った人たちは、教祖やリーダー、組織はもちろん悪いのですが、そこに世界や社会、人生の問題の解決を求めたから、その気持ちを利用されたのです。皆さんもそのようなことをどう考えていくか、そしてなぜカルトが問題になり、入信する人たちがいるのか、考えてみてください。そして皆さんなりに人を生かし、支えることのできるような本物の世界を追求してください。

2014年7月23日 京田辺水曜チャペル・アワー「奨励」記録

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